分子からフィールドまで
幅広い科学的視野で
農業を見つめる

学び

高品質で安全な作物、果物、花などの栽培には、より良い品種を育種する事は勿論、植物が生きてゆくための分子メカニズム、気象変動や環境に対する応答、ウイルスや昆虫とのせめぎ合いなどを科学の視点から明らかにすることが必要です。植物生命科学コースは、農業に必要なこうした科学知見に加え、植物、ウイルス、昆虫がもつ能力を利用した次世代生産技術を利用する知識や技術を学ぶコースです。分子からフィールドまで幅広い科学的視野を持った園芸、植物病理、作物、昆虫、植物育種、植物生理、持続型農業生産の各分野を扱います。

コースの特徴

本コースでは、農業とそれを取り巻く全ての分野を研究対象に学び、修了研究を実施できます。生命現象に関わる専門的知識を身に付け、野外と実験室の双方を研究フィールドとして生命を個体と分子レベルで研究する力を養います。修了研究では、唯一無二の成果を求め、最新の手法を駆使して新発見や新技術を生み出し、学問分野と社会に貢献する能力を身に付けます。これまでの科学的知見に基づき新発見する能力は、社会のイノベーションに寄与する原動力となります。本コースでは、現代社会のあらゆる分野で求められる現状分析に基づき、新たな価値の創造に寄与する人材を輩出します。こうした人材は、農業関連のみならず、社会のあらゆる分野の職種に適応できます。

人材育成

自分の所属する会社、団体、施設が関与する社会のニーズ(needs)とこれまでの経験により共有してきた地域と世界の科学シーズ(seeds)を的確に把握し、新たな価値を創造する人材育成を目指しています。特に、本コースで学んだ問題発見、解析提案、解決実行という研究における基本ステップを所属する職場において適応させることのできる、さらには、専門知識を活かした中心的な役割を果たすオピニオンリーダーを養成したいと考えています。

進路

コース修了後は、博士課程進学、公務員、民間企業への進路が想定されます。進学先としては、岩手大学大学院連合農学研究科が中心となります。東京大学や東北大学をはじめとする他大学大学院への進学も可能です。公務員では、東北各県をはじめ出身都道府県の地方公務員、農林水産省を中心とする国家公務員や高校教員となる修了生もいます。地方公務員では、農業関連の研究職として配属される修了生が目立ちます。民間企業では、農業関連、食品、製薬の技術者や営業職をはじめ情報、製造、銀行、鉄道など幅広い就職先が見込まれます。

社会貢献

世界で行われてきた研究成果の理解を基盤として、新たな発見を実現している本コースにおける科学研究は、世界と地域のニーズを理解し、解決法を提案、実行する人材を輩出していきます。こうした人材は、限られた専門分野のみならず、あらゆる社会に貢献する力となります。本コースの研究は、専門分野である美味しい作物やフルーツ、魅力ある花を作り出すとともに環境に対する応答を理解した栽培方法を駆使して次世代の農業に貢献します。また、植物、ウイルス、昆虫のもつ未利用の資源や能力を人間生活の質の向上に役立てることが期待されます。

求める学生像

生物学の基礎知識は勿論、化学、数学の基礎知識を持った学生が望ましいです。基本的な英語読解力は必要ですが、本コースの教育により科学英語に関する筆読とコミュニケーション能力は向上が見込まれます。研究対象を深く理解する科学論文の読解や、ラボやフィールドで実験を実施する意欲と体力を持っていることが求められます。さらに、過去ならび新規成果をプレゼンテーションできる能力を持ち、研究成果を社会発信するとともに社会貢献しようとする意欲のある学生を求めています。
INTERVIEW

「学びをふるさとに還元したい」
その夢が、研究の原動力

メッセージ メッセージ

私が生まれ育った北海道知内町はニラが名産で、実家もニラ農家。「大学で学んだことを家業でもある農業に役立てたい」という思いから、岩手大学農学部に進学しました。特に興味を持っていたのが、低温と植物との関わり。卒業論文では、植物研究によく用いられるシロイヌナズナを使い、光と温度が植物の成長にどう影響するかというテーマに取り組みました。しかし、研究にかける時間も知識も十分とはいえず「農業に活かせるレベルではない」と実感。また「ニラを使った、もっと実践に即した研究をしたい」と考えていたこともあり、大学院進学を決めました。

そして大学院で選んだ研究テーマが「ニラの凍結耐性と低温馴化の農業利用」。ニラは研究事例がまだ少なく、生態も未知の部分がたくさんあります。そのため、どうやって実験・検証するのか、研究方法を確立させるところからスタートしました。実験用のニラが種からでは上手く育たず、実家から苗を送ってもらったことも。苗が無事に成長してくれたときは「これでやっと研究ができる!」とホッとしました。

今は、生育途中のニラを凍らせ、細胞がどのぐらい損傷するかを調べるという実験をしています。この実験を繰り返すなかで、低温状態を繰り返し経験したニラは、寒さに慣れ(低温馴化)、耐性がつくことがわかってきました。これを踏まえ、今後は低温下での糖度の変化を検証したいと考えています。低温に晒すことで糖分を蓄える「寒じめホウレンソウ」のような特性を見つけることができれば、寒冷地を強みにした、甘く美味しいニラが栽培できるようになるかもしれません。研究は地道な作業の繰り返しですが、ニラの生産を、家業として、町の産業としてもっと大きくしたいという思いがモチベーションになっています。

修士課程を修了したら家業を継ぐことを考えているので、将来に備え、農業に役立つさまざまな資格の取得にも取り組んでいます。講義や課題で慌ただしかった学部時代と比べ、「自分がやりたい研究」に打ち込めるし、社会に出る準備も整えることができる。大学院生活は、人生においてとても貴重で、豊かな時間だと思っています。また、研究や学会での発表を通じて多様な価値観や考えに触れられるのも魅力。自分の視野を広げてくれるたくさんの出会いも、人生の大きな財産になってくれると感じています。

メッセージ

このコースの教員一覧

  • 磯貝 雅道 (教授/植物病理学特論)
  • 金澤 俊成 (教授/蔬菜園芸学特論)
  • 小森 貞男 (教授/果樹園芸学特論)
  • 佐原 健 (教授/応用昆虫学特論)
  • 下野 裕之 (教授/作物生産生理学特論)
  • 立澤 文見 (教授/花卉園芸学特論)
  • 畠山 勝徳 (教授/植物育種学特論)
  • RAHMAN Abidur (教授/植物分子生物学特論)
  • 川原田 泰之 (准教授)
  • 河村 幸男 (准教授/低温植物生理学特論)
  • 松波 麻耶 (准教授/作物栽培学特論)
  • 八重樫 元 (准教授/植物ウイルス病学特論)
  • 安 嬰 (講師/昆虫生理学特論)
  • 渡邉 学 (助教/寒冷地果樹特論)