研究室NEWS
研究内容
呼吸は生体にとって最も基本的な機能のひとつであり、外部の刺激を受けて調節を行ないます。例えば、周囲の酸素濃度が低くなると呼吸の頻度を高めて酸素を寄り多く取り込もうとしますし、外部から入った異物はくしゃみによって外に吹き飛ばされます。このような反応には、呼吸器などにある感覚受容器が刺激を受容し、延髄の呼吸中枢を刺激してリズムを変化させています。研究室では、哺乳動物の呼吸調節回路の全貌を明らかにするために、鼻腔、喉頭、気管、肺などの呼吸器にある感覚受容器の形態と機能、延髄の呼吸中枢の神経回路を形態学的手法、生理学的手法を用いて検索しています。
写真1は喉頭粘膜にある化学受容器の構造を示す共焦点レーザー顕微鏡像、写真2は感覚神経節にあるグリア細胞がATPに対して反応する様子を示すカルシウムイメージングのデータです。
写真1.喉頭粘膜に存在する化学受容器。緑色で示す感覚神経終末は、赤紫色の感覚細胞の周囲を取り囲む。
写真2.感覚神経節のグリア細胞(外套細胞)におけるATPに対する反応。ATPによって細胞内カルシウムイオン濃度が上昇する。
(山本欣郎)
嗅覚(きゅうかく)は視覚や聴覚と並んで五感の1つに数えられますが、動物にとって、嗅覚は餌を探したり、敵を警戒したり、仲間とのコミュニケーションにも関わる、生存に欠かせないとても重要な感覚となっています。
嗅覚を司る感覚器のことを嗅覚器といいます。我々人間にとって嗅覚器と言えば鼻粘膜にある嗅上皮を指しますが、多くの動物には鋤鼻器(じょびき)と呼ばれるもう1つの嗅覚器が存在し、独特の形態学的特徴をもった感覚細胞に、嗅上皮とは違う種類の嗅覚受容体が発現しています。そのため、鋤鼻器は特に、同種個体間で繁殖やなわばり、親子のきずな等の情報を伝える物質(フェロモン)の受容に関わると考えられています。
家畜である哺乳類はもちろん、魚類、両生類、爬虫類、鳥類の嗅覚器について調べてきた結果、嗅覚器に分布する細胞の構造や発現する遺伝子は、脊椎動物が環境に適応して進化を遂げる中で大きく変化し、嗅覚器の1つである鋤鼻器についても、動物によってさまざまな違いがあることが分かってきました。現在もっとも注目しているのが亀(カメ)の嗅覚器で、完全水生のものから、半水生、陸生のものまで、亀の嗅覚器の特徴と、それらの発生過程について解析を行っています。
写真3は亀の嗅覚器を示す模式図、写真4は感覚細胞の構造を走査型電顕と透過型電顕で観察したデータです。
(中牟田信明)
写真3.亀の嗅覚器は鼻腔の上憩室と下憩室に分かれて存在し、嗅神経は上憩室と嗅球の腹側部、下憩室と嗅球の背側部を接続している。右はアカミミガメ。
写真4.鼻粘膜の表面にはたくさんの太い毛(線毛)が観察され、線毛をもつ感覚細胞と線毛をもたない感覚細胞が区別できる。