獣医病理学研究室(共同獣医学科)
ヒトと同様に,動物も様々な病気に罹ります。当研究室では牛,馬,犬,猫をはじめ各種の動物がどのような疾患に罹っているか診断し動物疾病の予防,治療に貢献しています。研究内容としては下記の3つの柱を設けています。
入室した学生は最初に病理診断の基本を学びます。動物病院から依頼された実際の症例を通して,病理解剖法や標本作製,組織所見のとり方など実践的な技能を習得していきます。週一回のセミナーでは各自興味ある論文や珍しい病気を紹介し,学術英語に慣れるとともに知見を広めています。卒業研究は病理標本作製技術の習得後始まります。
研究室の一日は朝8時半からの清掃で始まります。その後,授業や病性鑑定(病理診断),卒業研究に取り組みます。毎年春にはJCVP学術集会・獣医病理学研修会や実験動物病理標本交見会に参加して自己研鑽に励んでいます。継続は力なり。4〜5年次から学会発表ができるように指導しています。研究室の行事は 4月お花見,6月温泉旅行,10月学会打上げ,12月忘年会,3月の送別会,学会打上げなど盛りだくさん。興味のある方はいつでも見学に来て下さい。
研究内容
1.神経系に病原性を示すトリ白血病ウイルスに関する病理と疫学(落合)
従来はそれほど病原性が強くなかった病原体が突如高い病原性を示すようになることがあります。いわゆる「新興・再興感染症」は鳥類疾病の中でも注目されています。当研究室では家禽疾病のうち、特にトリ白血病ウイルス(ALV)感染症の診断,病原性解析および疫学について研究を行っています。
ALVは多様な腫瘍を誘発するウイルスで、1980年代には骨髄球腫症という新たなALV感染症が多発し問題となりました。しかし,最近になって類似する疾患が新たに発生していることがわかりました。また,私たちはALVが脳腫瘍を誘発することを証明し,このウイルスが日本鶏には高率に感染していることや採卵鶏には異なる脳腫瘍誘発ALVが存在することを明らかにしました(図1)。現在、ALV感染症の実態を明らかにするため,国内各地の鶏からALVを分離し、分子生物学的解析を行うとともに感染実験による病原性解析を行っています。
2.福島第一原発事故による周辺生物への影響に関する病理学的研究(佐々木)
フィールドリサーチとしては、東日本大震災後に福島第一原子力発電所の周囲で飼育・維持されていた黒毛和種牛に発生した皮膚の白斑(図2)を研究しています。チェルノブイリ原発事故後もツバメなどの野鳥で羽毛の白色化が報告されましたが、震災後にみられたこれら黒毛和種牛の白斑も合わせ現在のところ原因が分かっておらず、放射線の影響かどうか科学的な解明が望まれています。
3.産業動物,伴侶動物,動物園動物などの原因不明の疾患の病態解析
動物病院から依頼された実際の症例を通して,病理解剖法や標本作製,組織所見のとり方など実践的な技能を訓練しています。図3はネコヘルペスウイルス1型による肺炎の組織像で,核内封入体が認められます。こうした症例のうち,学術的に興味深い疾患は学会で発表しています。
卒業研究・修了研究テーマ例
2018年度
・Yersinia enterocolitica infection in two Guerezacolobus monkeys (Colobus guereza)
(アビシニアコロブス2頭にみられた Yersinia enterocolitica 感染症)
・インコの微胞子虫症の病理学的特徴と病原体検出法の検討
2017年度
・鶏大腸菌症—特に上部気道の病変について—
・粘液肉腫由来トリ白血病ウイルスの神経系に対する病原性解析と
熊本地方の日本鶏の神経膠腫発生状況
・福島県の被ばく牛における甲状腺の病理学的検討