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研究室紹介

森林資源化学研究室(森林科学科)

樹木をはじめとする森林資源の化学分析と利用に関する研究を行っています。具体的には1.樹木香り成分の分離と利用に関する研究、2.樹皮の成分分析および有効利用法の開発、3.樹皮ポリフェノール(縮合型タンニン)の生分解に関する研究、等が主な研究テーマです。

所属教員
小藤田 久義    
キーワード
バイオマス    地域創生    微生物    森林    生命科学    資源    

研究内容

1.樹木香り成分の分離と利用に関する研究

 近年、空気中に放出され拡散した樹木の香りが人体に好ましい影響を及ぼすことが明らかになりつつあり、現代のストレス社会において生活環境を改善するためのツールとして利用することが検討されています。私達はスギの木材から水蒸気蒸留という方法で香り成分(精油=エッセンシャルオイル)を抽出し、これを吸入したときに脳波にどのような影響があらわれるかについて調べました。

 岩手大学の御明神演習林で伐採されたスギ丸太を鉋屑にして精油を抽出し、成分分析を行った結果、22種類の揮発性物質が見つかりました。これらは、いずれも森の香りの主体となるテルペンと呼ばれる物質でした。このスギの精油をアルコールで薄めて被験者に吸入してもらい、それぞれの脳波を測定すると、リラックス状態を示すα波の増加が認められました。さらに、スギ材精油から主要な8種の成分を単離・精製して同様の分析を行ったところ、このうちいくつかでは単一物質によるα波の増加が認められ、スギ材精油に含まれているリラックス効果を持つ物質(アビエタジエン、トレイオール)を探りあてることができました。

  樹木の成分には、このような香り成分をはじめ、いままで知られていない様々な機能を持った物質が含まれています。人間の生活改善や健康維持に有用な薬理活性物質を森林資源から生産することで、林業に新しい付加価値を生み、新規雇用の創出や地域産業の活性化に貢献したいと願っております。

2.樹皮の成分分析および有効利用法の開発  

 樹皮には、細胞壁の骨格を構成する多糖類およびリグニンの他、ワックス、テルペン、フェノール類、タンニンなど極めて多様な成分が含まれることが知られています。また、樹皮は樹木の最外層をなす生体防御組織としての性格を持ち、その成分中には数多くの生理活性作用を有する物質が存在します。本研究の目的は、このような樹皮成分を詳細に分析するとともに、その特徴を生かした有効な活用法を開発することにあります。  

 これまでの研究の過程では、本邦産の主要樹種であるスギ、カラマツおよびアカマツの樹皮について成分の全体分析法の見直しを行い、それぞれの主な組成が明らかにされました。引き続いて、樹皮抽出物の生理活性作用の探索をはじめとする詳細な検討を行いましたところ、スギ樹皮のヘキサン抽出物に強い抗菌活性が見いだされ、本抽出物から新規化合物を含む数種の活性物質が単離・構造決定されました。  

 樹皮は樹木乾燥重量の約1割を占める重要なバイオマス資源であり、原木丸太の製材副産物として排出されています。近年では、主に針葉樹の廃樹皮がエネルギーや農畜産業資材として用いられるようになってきているものの、廃物処理的な低位の利用形態にとどまっており、高い商品価値を生み出すような利用法は見つかっていません。今後、樹皮成分の有する薬理活性を実用レベルで役立てることが可能になれば、その技術は森林資源の高付加価値化をもたらすものとして期待されます。

3.樹皮ポリフェノール(縮合型タンニン)の生分解に関する研究

 空気中に炭酸ガスとして存在する炭素は、光合成によって樹木の組織として固定されます。樹木組織の構成成分は、樹木が枯死した後に森林内の微生物によって分解・代謝され、再び炭酸ガスとして大気中に放出されます。これを森林の炭素循環サイクルとよびますが、樹木成分から炭酸ガスに戻るまでの経路には不明な点が数多く残されています。特に縮合型タンニンは、芳香族高分子化合物としてはリグニンに次いで多量に存在する天然物質でありながら、これまで樹皮に特有の成分であったために、生分解研究がほとんど進んでいません。

 当研究室では、天然の縮合型タンニンに替えて放射性標識タンニンを合成し、これを試料として各種木材腐朽菌による生分解実験を行うことにより、種々の木材腐朽菌のなかから高い縮合型タンニン分解能力を持つ菌株の選抜を試みました。その結果、シイタケを含む数種の菌株が効率的に放射性標識タンニンを分解代謝し、二酸化炭素として大気中に放出することが確認されました。これらの菌株は今後の研究においても利用価値が高く、縮合型タンニンの生分解経路や、それに関わる分解酵素の研究に役立つと思われます。  

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