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研究室紹介

造林学研究室(森林生態学分野)(森林科学科)

 森林と一言でいっても,原生的な森林だけでなく,人々がむかしから薪炭用に利用してきた雑木林もあれば,木材生産やウルシ採取のために造成されたり,あるいは海岸林や防風林のように災害を軽減する目的で造成されたりする森林もあります。森林からの恩恵を享受しつづけるためにどのように森づくりをしてゆくのか,森林の姿や木々の営みを生態学的に理解するだけでなく,ときには森林の利用史を踏まえながら社会とのかかわりの中で研究を行っています。
 岩手に来てまだ日が浅いため(2018年3月着任),試験研究の多くは北海道に調査地をもちますが,これから岩手県を中心として東北各地で研究を行って行きます。

所属教員
真坂 一彦    
キーワード
フィールド科学    林業    森林    環境    生態    

研究内容

当研究室で取り組んでいるおもな研究テーマ

1.天然林の動態と多樹種の共存関係の解明

2.海岸林や防風林をはじめとする環境林の造成と管理方法の提案

3.「森-ミツバチ-食のつながり」の実証

4.樹木の多様な性表現の統一的な理解

5.飛砂害史の考証

6.その他

 

1.天然林の動態と多樹種の共存関係の解明

 森林は様々な樹種で構成されています。森林のなかを見わたすと,稚幼樹がたくさんあるのにもかかわらず林冠木が少ない樹種もあれば,稚幼樹がほとんどないのにもかかわらず林冠を優占している樹種もあります。また出現数は少ないものの,ほぼどこでも見られるような樹種もあります。これらの樹種は,どのような共存関係にあるのでしょうか。そもそも共存しているのでしょうか。造林学研究室では,長期にわたって林木の成長と生残枯死,新規加入を追跡調査することで,森林の姿を動的に捉える研究を行っています。

 

調査地の例

①石狩浜に広がる海岸林は日本でもっとも広い天然生のカシワ林です(写真1-1)。このカシワ林は,300年より若い砂丘地に20世紀初頭に成立したようです。カシワは陽樹なので,いずれ耐陰性が高いミズナラやエゾイタヤに置き換わっていくのでしょうか。

②元岩手大学の杉田久志博士によって1991年に設定された4haの大滝沢試験地(岩手大学御明神演習林)は,ヒバとブナをはじめ,トチノキやスギの巨木が林立する原生的な森林で,環境省による準コアサイトにも指定されています(写真1-2)。2015年の豪雨災害により林内の各所で斜面崩壊が発生し,サワグルミが更新してきました。この森林は将来,どのような姿になるのでしょうか。

③北海道の渡島半島には,松川恭佐(明治25~昭和55)が設定したヒバ施業試験林があります。その試験林がある斜面上部に位置する遺伝子資源保存林に,1992年に固定試験地(0.7ha)を設定しました(写真1-3)。このヒバ林ではブナが共存できるようですが,他の広葉樹はしだいに姿を消しつつあります。残念なことに,現在,林道が閉鎖中で調査地にアクセスが難しい状況で,2009年以降の調査はお預け状態です。上ノ国ダム横の施錠されたゲートから調査地までは約6kmの林道を歩かねばならず,途中には,代々八幡太郎を襲名するヒグマが棲むといいます。

 

 写真1-1

 写真1-2

 写真1-3

 

 

2.海岸林をはじめとする環境林の造成と管理方法の提案

 日本では中世以降,製塩や戦乱,たたら製鉄にともなう鉄穴流しなどによる海浜の荒廃で,とくに冬季に強い季節風が吹き寄せる日本海側を中心に大砂丘が各地に発達しました。今見られるクロマツ海岸林の多くは,砂丘からの飛砂害を防ぐために造成されたものです。また,北海道にはカシワ海岸林も造成されていますし,道東・道北地域には,ヤマセと呼ばれる海霧を防ぐための防霧林としてグイマツも植えられました。これらの飛砂防備や防霧機能に加え,3.11以降は津波減災機能も大きく注目されるようになりました。海岸林のほとんどは10,000本/haという超高密度で植栽されます(林業用針葉樹はおもに2,500~3,000本/ha植栽)。しかし,制度的,予算的,心理的な要因が重なり,手入れ不足となっているところが多いのが現状です。海岸林の減災機能を発揮するための密度管理が求められています。

 

調査地の例

①北海道渡島半島の日本海に面する江差町の厚沢部川河口域には,北海道でもっとも古いクロマツ海岸林があります。1999年に,間伐効果を実証するため伐採強度を変えた間伐試験地を設定し,間伐後の成長を追跡調査しています(写真2-1)。

②手入れ不足で過密林化したグイマツ林です(写真2-2)。一本一本の木がヒョロヒョロで,互いにもたれあってやっと立っているような状況です。林内が真っ暗なため,地下茎で養分を輸送できるササすら生えないところも多いです。

 

 写真2-1

 写真2-2

 

 

3.「森-ミツバチ-食のつながり」の実証

 養蜂家が飼養するミツバチが,イチゴやメロンをはじめとする果樹野菜の花粉交配に使われることは良く知られていますが,ミツバチはどうやって群を維持しているのでしょうか。養蜂家のあいだでは西日本は里の蜜源,東日本は山の蜜源といわれるように,東北・北海道では森林が重要な蜜源となっています。つまり,森がミツバチを養い,森によって養われたミツバチが私たちの食を支えているといえます。いわゆる森林による生態系サービスの一つです。私たちの食生活を豊かにするミツバチのために,どのように森林を管理すべきか研究をしています。

 

調査地の例

①北海道乙部町では2010年から蜂蜜の里の森づくりを行っています(写真3-1)。現在,乙部町からの委託研究で町内の蜜源探索のために,主要な蜜源樹種であるトチノキの天然分布調査を行っています(写真3-2)。里に近い森ではありますが,林内には胸高直径が1mを超えるようなトチノキもあります。

※胸高直径とは地表から1.3mの高さの位置での幹の直径のこと。

②「…-食のつながり」ではありませんが,岩手県二戸市の浄法寺ではウルシ蜜を採っています。最近は国産漆の増殖が課題となっており,そのためウルシ林へのミツバチの供給がウルシの種子生産量にどのていど貢献するのか,養蜂家の協力を仰ぎ調査準備中です(写真3-3)。念のため断っておきますが,ウルシ蜜を食べてもかぶれません。

 

 写真3-1

 写真3-2

 写真3-3

 

 

4.高等植物の多様な性表現の統一的な理解

 高等植物の性表現は多様です。たとえば,一つの個体のなかに雄花と雌花をもつ雌雄異花同株や,一つの種の中に雄個体と雌個体がある雌雄異株,雌個体と両性個体がある雌性両全性異株,そして雄個体と両性個体がある雄性両全性異株などです。しかも,それぞれのあいだで移行的なものもあります。近縁種で性表現が異なる場合もあります。

生物は子孫をつくるために様々な工夫を凝らしていますが,植物における性の配分は,直接種子数にかかわるため最も重要ではないかと思います。それではいったい,なぜ性表現がこれほどまでに多様なのでしょうか。

 この研究では,雄花から雌花への花粉の輸送効率を切り口に,ゲーム理論という数理モデルを用いて解析しているところです。現在,雌雄異花同株と雌雄異株,雌性両全性異株の三つを包含し,かつ現実的な説明が可能な結果が得られています。

ちなみに,この研究はカンバ類における種子生産の豊凶予測に関する研究から派生したものです。なぜ豊凶と性比配分が関連するのか,興味のある方は直接問い合わせてみて下さい。

 

5.飛砂害史の考証

 クロマツ海岸林の多くが飛砂防備を主目的として造成されてきましたが,飛砂害をもたらした砂丘荒廃地の出現要因は地域によってさまざまなようです。たとえば,北海道江差町の砂坂海岸林(写真5-1;正確には国有林地を砂坂海岸林,民有林地を柳崎海岸林と呼ぶ)が造成された砂丘荒廃地の出現は,鰊〆粕製造にともなう海岸林の濫伐が原因と説明されてきました。ところが,幕末から明治にかけての歴史を紐解いてみると,どうやら馬の過放牧が原因だったと考えるのが妥当であることが分かりました。

 また,飛砂害に苦しんだ当時の人々の生活も断片的には語り継がれていますが,県史,あるいは市町村史ではなかなか取り上げられていないのが現状です。飛砂害は,四方を海に囲まれ資源が乏しい日本だからこそ発生した災害だと思います。飛砂害の記憶が失われる前に記録し,後世に継承してゆく必要があると思います。

 

 写真5-1

 

6.その他

・北海道の空知地方には,強風から作物を守るために防風林が造成されてきました。ところが最近,シラカンバからなる防風林が多数のゴマダラカミキリによる穿孔被害を受け,衰退していることが分かりました(写真6-1)。写真6-2は,ゴマダラカミキリの幼虫による穿孔の様子です(スケールは15cm)。被害が拡大するのか今後の推移を注意深く見守らなくてはならないのと同時に,樹種転換も図る必要があります。

 

 写真6-1

 写真6-2

 

・外来種ニセアカシアは,その旺盛な繁殖力から在来植物を駆逐すると言われてきました。一方で,ニセアカシアは養蜂業にとっての重要な蜜源であり(写真6-3),養蜂業のミツバチが果樹野菜の花粉交配に使われている(写真6-4)ともいわれていました。しかしながら,あまりに情報がないため調査をしたところ,明らかになったことは次の2点です。1)在来植物を駆逐するという主張にほとんど科学的根拠がなく,林内には希少種・絶滅危惧種をはじめ多様な在来植物が生育している,2)養蜂業による花粉交配を介して私たちの食生活に大きく貢献している。

 

 写真6-3

 写真6-4

 

・せっかく植えた木が育たたないで枯れてしまう,ということがあります。特に,私たちの生活環境を守る,いわゆる環境林の造成地でそのような問題が発生しやすいようです(写真6-5,6)。物言わぬ苗木を眺めても,なかなか答えは見つかりません。いつ,どのような条件で,どのように衰弱し,枯れたのか。現状を観察することで妥当な作業仮説を提示し,そしてそれを実証するための比較や実験を行わなくてはなりません。答えを得るのに,何年もかかる場合があります。不成績原因を解明することは,同じ轍を踏まないための一助となります。

※ここで使う環境林とは,海岸林,防風林,防雪林などを指す。

 

写真6-5

 写真6-6